こんにちは、ゆんつです。
最近ビンの牛乳を飲む機会がありました。
パックの牛乳はたまに飲んでいますが、ビンの牛乳はもういつ飲んだか覚えていないくらい久しぶりでした。
牛乳瓶に被せられているプラスチックのフタを外しながら
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子供の頃は牛乳瓶のフタって紙だったなあ
などとノスタルジックな気分に浸っていると、突然思い出しました。
小学校低学年の頃にやった「パイ」という遊びを。
パイとは
紙製の牛乳のフタを表向きに机に並べて息を「パッ」と吐いて裏側にひっくり返す。
そんな遊びを僕たちの周囲では「パイ」と称していました。
そして牛乳のふたの価値は「ダー」という言葉で表されていました。
いつも給食で出てくる牛乳のフタが価値の基準となり1枚で「1枚ダー」です。
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お金でいうと1円みたいな感じです
コーヒー牛乳のフタなら1枚で「3枚ダー」
見慣れない牛乳のフタや飲むヨーグルトのフタなど、変わり種のフタの価値は子供同士のやり取りの中で決まっていきます。
保有者が10枚の価値があると思い、それで勝負を受ける子がいればそのフタは「10枚ダー」の価値があることになります。
また最初は価値が高いフタも誰かが大量に持ち込んだりすると価値が下がり「10枚ダー」が「5枚ダー」になったりします。
このゲームが流行って少し経つと、いつも給食で出てくる「1枚ダー」のフタはどんどんと価値が落ちてきました。
給食のたびに誰でも最低「1枚ダー」を手に入れることができるからです。
このゲームに全く興味のない女子から貰ったり、ごみ箱から拾ったりすれば1日で「30枚ダー」くらいなら簡単に稼げてしまいます。
逆に給食に出ないフタの価値はどんどんと上がっていきました。
末期には珍しいフタは「100枚ダー」以上が当たり前になり、給食で手に入れられるフタで勝負を受ける子はほとんどいなくなっていました。
このような牛乳のフタの価値の変動は、なにか実際の経済と少しリンクしているような気もします。
勝負の作法
勝負の前に参加者は「何枚ダー?」とまるでお経のようなフレーズを言い合います。
参加者が口々に賭ける牛乳のフタの枚数の希望を「3枚ダー」、「5枚ダー」と言います。
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競り市みたいだな
賭ける枚数については、1対1の勝負の場合は当事者の合意。
参加者が多数の場合は多数決で決まり「5枚ダー」が多ければ「じゃあ5枚ダーね」となって、5枚ダー分の牛乳のフタを取り出し机に並べます。
続いてじゃんけん。
買ったものから順番に「パッ」ができます。
ひっくり返した牛乳のフタが自分のものとなり、机の上から牛乳のフタがなくなるまで勝負が続きます。
僕が見た大勝負
「パイ」が流行し始めると、「パイ」の上手な子のもとには色んな牛乳のフタがどんどん集まり「牛乳のフタ長者」が誕生します。
このようなパイが上手で牛乳のフタを沢山持つ子は「パイ将」と呼ばれていました。
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何で?
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「パイの大将」略して「パイ将」
僕のクラスにもパイ将がいて給食には出ない珍しい牛乳のフタ1000枚以上、価値にして「1万ダー」以上を保有する猛者がいました。
あるとき、その子が隣のクラスのパイ将と持っているフタを全部かけて勝負することになりました。
枚数にして2000枚以上、価値にすると2万ダー~3万ダーの大勝負です。
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まさにこれは小学生版の関ケ原の合戦です!
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大げさなんだよなぁ
このような大量の枚数を使用する戦いは、通常のパイとは少し勝負の作法が違います。
通常は賭けるフタを机に全て並べますが、枚数が多くなると机には並べられません。
このような大勝負の場合「1枚勝負」をするのです。
1枚ダーの牛乳のフタを1枚だけ出して、じゃんけんで先攻後攻を決めます。
そして、普通なら先攻が最初にひっくり返したら、後攻は何もできずに負けですが大勝負の時はルールが少し変わります。
先攻がひっくり返しても、後攻はフタを表に返して挑戦できます。
そして後攻がひっくり返したら引き分けで次のターンに進むのです。
こうして、どちらかがミスるまで勝負は延々続きます。
どちらかが返しそこなった時に決着がつくのです。
お昼休み、両クラスの大勢の男子が見守るなか合戦の火ぶたが切って落とされました。
僕のクラスのパイ将はじゃんけんに負け後攻になりました。
先攻がゆっくりと机に近づきます。
机に近づきながら首をぐるぐる回したり手首を回したりしてまるでアスリートです。
体制を低くし机に顔を近づけて息をパッと吐く体制に入ります。
この瞬間はざわついていたギャラリーも一気に静まり返ります。
先攻が軽くパッと息を吐くとフタはくるんと半回転し綺麗にひっくり返りました。
隣クラスのパイ将を応援しているギャラリーからは「うおー!」という歓声。
子分みたいなやつが駆け寄ってきて隣のクラスのパイ将の肩を揉んだりしています。
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アホか
次は僕たちのクラスのパイ将の番です。
クラスメイトから「落ち着いていけ!」などの励ましの声がかかります。
顔を机に近づけて「パッ!」
フタは見事にひっくり返りました。
僕もクラスメイトも一斉に歓声をあげます。
そして僕は
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隣のクラスに負けてられない!
とばかりに、そそくさと僕のクラスの「パイ将」の後ろに回り込み肩を揉みました。
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お前もアホだ
こんな感じのやり取りが10ターンほど続きました。
先攻、後攻どちらの顔にも疲労の色が濃くにじんでくるようになりました。
そして12ターンあたりでしょうか。
先攻がひっくり返し、僕らのパイ将の番です。
「パッ」
口から吐き出された空気の量がいつもより少し多かったのでしょう。
フタはいつもより少しだけ高く舞い上がりました。
フタは空中で1回転してしまい表向きで着地しました。
僕のクラスのパイ将の負けです。
その瞬間、隣のクラスのパイ将を応援するギャラリーからは割れんばかりの歓声があがりました。
勝利の興奮で顔を紅潮させている隣のクラスのパイ将と呆然としている僕たちのクラスのパイ将。
僕はこの勝負に彼ら2人の今後の人生を見たような気がしました。
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大げさなんだよなぁ
僕のクラスのパイ将は勝負の後
「周囲の熱気と疲れで呼吸が少しだけ乱れた。自分に負けた。」
とまるで牛乳のフタを返す遊びとは思えないような重々しいことを言っていました。
放課後。
僕らのクラスのパイ将の家にある大量の牛乳のフタが、隣のクラスのパイ将に引き渡されました。
流行の終わり
大勝負が終わって間もなく、学校からパイの禁止が言い渡されました。
子供たちの中でも多少飽きがあったのでしょう。
残念がる子もほとんどおらず、パイのブームは嘘のように去っていきました。
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2か月くらいの爆発的なブームでした
残されたのは誰も見向きもしなくなった大量の牛乳のフタ。
「100枚ダー」も「1枚ダー」も一緒くたにされてゴミ箱行きとなりました。
捨てられた牛乳のフタが焼却炉に入れられるとき。
子どもたちは皆「ナンマイダー」と両手を合わせていました。
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嘘つけ!
それでは、またー。
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